10年の社会人経験を経て、パティシエをめざした成田さん。メディアにも登場する人気パティスリーで働くその思いとは?『アトリエ・コータ』オーナーシェフ、吉岡浩太さんのコメントも交えて、お菓子に対するこだわりや、お店への思いに迫ります。
|パティシエの道に進むきっかけは?|
社会人10年目のある日「好きなことを仕事に」と思い立ちました。 |
高校を卒業後、地元青森の大学に入学しましたが、はっきりとした目的を持たずに入ったので「大学を出なければできない仕事に就く自分」のイメージが湧かず、結局中退。その後、社会人として事務系の仕事や飲食店のアルバイト、生命保険の営業などいろいろな仕事をやって10年近く経ったある日「人生いつ終わるか分からないし、自分の好きなことで仕事をしたい」と思い立ったんです。もともと趣味でお菓子づくりはずっと続けていて。パティシエになろう、仕事にしようと決めたのは、人よりもだいぶ遅いタイミングでした。
|入学までの経緯、学校選びの決定打は?|
実習の充実度と就職率、アルバイト先紹介もポイントに。 |
すぐにパティスリーに就職したいとも思ったのですが、年令のこともあり「未経験で雇ってもらえるかどうか」はやはり不安。「専門学校に入っておけば就職にも有利かも」という期待と、趣味のレベルを超えて仕事にするために「もう一回学校でちゃんと勉強しよう」という思いもあったので、まずは学校に行こうと。
昼間はパティシエの仕事を経験したかったので、はたらきながら学べる夜間部のある学校で、自宅から1時間以内のところを探していました。何校かパンフレットを取り寄せ比較して、実習の充実度と就職率の高さで「ここ、いいかも」と思ったのが東京製菓学校でした。夜間部向けのスクール説明会に参加して、授業の様子をのぞかせてもらったり、学校の方の説明を聞いたりしました。印象的だったのは「先生と学生の仲が良さそう」だったこと。説明してくださったスタッフの方の感じも良かったですし、当初から希望していた「昼間のアルバイト先も紹介してくれる」ということだったので「やっぱりここかな」と思い入学を決めました。
|学校の印象|
グループでつくる=「コミュニケーション」は大切。 |
入学直後は、年令のことが気になり「周りとうまくなじめるかな」と心配でしたが、意外に同年代の人も多くて安心でした。授業は基礎からしっかり学ぶことができましたが、趣味でつくっていたときとの一番の違いは「分担してグループでつくる」ということ。趣味でつくるのとは異なり、仕事の現場を想定していろいろな作業をグループの子たちと分担して行うので、コミュニケーションがとっても大事。つねに話し合い協力しながら、実習に臨んでいました。
不思議なもので、同じレシピでつくっていても、それぞれのグループによって仕上がりや味などにちゃんと違いが出てくるんです。班によってできあがったものに差が生まれるんですよね。だからいつも「なんでこうなるの?」を掘り下げていました。基本的に不器用なタイプなので(苦笑)、ノートをとったり写真をとったりして、「なぜ」の答えを探す毎日でしたね。まあ、いまも不器用なのは変わらないですが(笑)。「もっと学生のときに“絞り”をちゃんとやっとけばよかった」とか、いまにして思うこともあります。
|アルバイトと就職について|
学校に紹介してもらったお店が、そのまま就職先に。 |
入学後、アルバイト先として紹介していただいたのが、じつはいま働いているアトリエコータなんです。「お客さんの目の前でお菓子をつくってくれるカウンターのある、面白いお店があるよ」と紹介していただいて。昼間の仕事は2年間ずっとここでした。仕事は販売や洗いものなど地道なものから入りましたが、シェフの手さばきや社員のみなさんの仕事ぶりをつぶさに見れるので、とても良い経験でした。シェフが私の授業のことなどもいろいろ気を遣ってくださって、春は週4、夏は週2、冬場は週5など、アルバイトに入るシフトも季節によって調整してくれました。
就職は、一応求人票で探したりもしたんですが…シェフから「ここで働きたかったらこのまま働けるよ」と言っていただいたので、そのまま就職させていただきました(笑)。私自身「このお店なら自分の学べることがまだまだたくさんある」と感じていましたし、本当に渡りに船というか。大切なご縁になりました。
►オーナーシェフ|吉岡浩太さんのコメント
ウチは基本、アルバイトに製造はさせず社員だけがやりますし「アルバイトをそのまま社員にする」といった流れもありません。あくまでバイトはバイトです。それでも彼女を社員にしようと思ったのは、日ごろの彼女の姿を見ていたから。もちろん学校で学んでいるぶん、ある程度パティシエの仕事に関する知識や経験があるという点も考慮はしましたが、一番の理由は「技術」ではなく「人間性」。お店を切り盛りするためのいろいろな仕事を率先してやってくれるとか、人としての資質に魅力を感じたからです。
※
吉岡さんもじつは東京製菓学校の卒業生。
「学校の実習と現場の仕事とでは多少異なる点もありますが、それでもルーティーンに入ったときの流れが理解しやすいとか、つくっている作業の雰囲気をつかめるとか、そういったことが学校で学ぶことの一番のメリットじゃないかと思います」とコメントをくださいました。
|いまの仕事について|
お客さまの「おいしい」を直に感じられる喜び。 |
仕事は朝8時から。開店前は焼き菓子や仕込み全般、朝出しのケーキの仕上げなどからはじまります。開店後は販売でお店にも立ちながら、14時からはじまるカウンターの準備などをしてお昼休み。カウンターがはじまるとサポートの仕事をしながら次の日の仕込みや準備をして終わり、というのがおおまかな1日の流れです。シェフの方針で残業などはあまりなく、早い時間に帰れます。まだまだパティシエの「パ」がつかないくらいのレベルなので(苦笑)、仕事では失敗も少なくないです。この間もロール生地がうまくつくれないことがありました。でも、このお店では良い意味で「失敗させてくれる」んです。シェフがもう一回同じ作業をやってみせてくれたり、なぜ失敗したのかを考える機会を与えてくれる。ありがたい環境だな、と思います。
あと、何と言ってもお客さまの「おいしい」を直に感じられるところ、とても気に入っています。コトバがすぐに伝わるし、シェフの受け売りになっちゃいますが…目の前で喜んでいただけることが本当にうれしいんです。いまの仕事がいままでの社会人経験で一番楽しい。毎日忙しいけれど気にならないし、むしろ「時間が足りない」と思うくらいです。
►オーナーシェフ|吉岡浩太さんのコメント
お客さまに「本当においしいものを食べてもらうには」と考えた僕の結論が、カウンター。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく。その場で最適な状況でお菓子を楽しんでもらえます。ちょっとした説明などコミュニケーションもとれますし、お菓子をより堪能していただけると思います。
|今後の目標|
まずは「できること」を増やしていきたい。 |
じつは私、「いずれはカフェでも開こうかな」って思っていたんですけど…シェフのリアルな体験談を聞くと「こんなお気楽じゃムリかも」って(笑)。活きた話をつぶさに聞けるのも、このお店に入って良かったと思うことのひとつです。もともと、いっぺんにいろいろやろうとし過ぎて失敗しちゃう性格なので「目の前のことを一歩ずつ」を意識しています。当面は「仕込みのクオリティ」を上げたいですね。とにかく、ひとつずつ。できることを増やしていきたいです。私、休みの日にも食べに来てしまうくらいお店のことが好きなので(笑)、ここで少しでも腕を磨くことが、いまいちばん大切な目標です。
|Message|
オーナーシェフ|吉岡浩太さんの想い |
スタッフにもいつも言っているのは「お店を出すことがゴールじゃない」ということ。みんな「お店を出すこと」がゴールだと思ってる。でもそれはゴールじゃなくて、スタートなんだと。出したお店にお客さんが来て、お菓子を買ってくださって、それがどう続いていくのか。そのために必要なのはつくる技術だけじゃないよ、と。
どこにお店を出すかとか、どんなお客さまがいるのかとか、どんな商品を揃えればそのお客さまに喜んでいただけるかなど、経営的な視点が必要だし、資本となるお金をどう準備するかといったことも学んでおかないとお店なんかできないよ、と。製造だけじゃなく出店計画や店舗開発に携わってきた経験があるからこそ、そう言えるのかも知れません。
とにかく、僕には「せっかくこの業界に入ってくれたんだから、続けてほしい」という思いがあるんです。正直、この仕事には大変な場面もたくさんあります。でも、それ以上にやりがいもあると思うんです。だから、例えどんなかたちでもお菓子に携わっていってほしい。シビアな話もあえてするのは、そういう思いがあるからなんです。
神楽坂の坂の上にある、デザート専門のパティスリー。オーナーシェフ・吉岡浩太さんがつくり出すデザートプレートは開店直後から大好評。オープンキッチンで「目の前で仕上げられるできたてのデザート」は、予約がないと味わえない人気ぶり。できたてならではの最高のおいしさを、お客さまに提供し続けています。神楽坂のほか、飯田橋にはテイクアウト専門店が、2014年には江ノ島店もオープンしています。
~成田さんのオススメ~
○パンケーキ:カウンターで食べられるふわっふわのパンケーキは、成田さん曰く「それまでのパンケーキのイメージが覆るくらいおいしい」というイチオシ。季節によってトッピングが変わるそうです。
○神楽坂チーズケーキ:冷やすとさらにおいしい、お店人気のお土産。
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